アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(30)
今回は、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 第2節 勝利、敗北、自尊心である。
コーンは、次のように述べている。(p.179)
①アメリカ社会のような競争社会においては、ふつう協力によって力強い自我の感覚が持てなくなってしまうのであり、そのため協力には依存の臭いがつきまとうと思われている。しかし実は、まさにその逆であるように思われる。
②デビッド・ジョンソンとロジャー・ジョンソンは、17もの様々な研究を再検討することによって、「協力的な学習状況は、競争的な状況や個人主義的な状況よりも、もっと高い水準の自尊心を育み、自分には価値あるのだという結論を導き出す健全な過程を促していく」と結論付けた。
③別のところでも、彼らは「協力によって、精神的な成熟度、よく調整された社会関係、しっかりした人格の同一性、他人に対する基本的な信頼と楽観主義など心理的な健康の膨大な指標とプラスの意味で相関関係がある」と述べている。
④そして、競争が外部から支配されているという感覚を強めていくのに対して、協力は自分でコントロールしているという感覚を促していく。他人と対立するよりも、他人と協力する人びとのほうが、自分の生活を自分でコントロールしていると感じるのである。
①の「依存の臭い」について…「協力には依存の臭いがつきまとう」と考えられるのはどういう状況だろうか。
ある集団に属する人たちが、ある目的のために何事かを為そうとする時、メンバーAにできることが無いならば、彼は「自我の感覚が持てなくなり、他者に依存するようになる」ことは考えられる。しかし、競争によっては「依存」が無くなるということはない。メンバーAは、「無能力者」として評価され、切り捨てられるだろう。それに対して、「協力社会」では、メンバーAに対しては「同じ仲間」として、「どうすればできるようになるか」を教えられるだろう。
②の「自尊心」について…メンバーAに「現在」能力が無くても、「同じ仲間」として、一人の人間として扱われるならば、「自尊心」が育まれる。
③の「心理的な健康の指標」について…ここに挙げられている指標は、覚えておきたい。これらは「協力」によってこそ得られる。私は、特に2番目の「よく調整された社会関係」と4番目の「他人に対する基本的な信頼」が重要ではないかと思う。
- 精神的な成熟度
- よく調整された社会関係
- しっかりした人格の同一性
- 他人に対する基本的な信頼
- 楽観主義
④の「自己コントロール」について…メンバーAができることを(学ぶことを含めて)為そうとする時、彼は自分をコントロールしていると感じ取ることができよう。
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競争から共創へ
・「ある集団に属する人たちが、ある目的のために何事かを為そうとする時」というとき、「集団間の競争」を含意しない。(もちろん「国家間の競争」を意味しない)
・「共創」という言葉を、ビジネス用語にとどめない。
・集団→Global Community(「国家」はローカルな集団である)
・何を為すのか? 「創造」である。普遍的な価値を維持することである。