浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

行動の原因帰属(個人の特性か環境か)と帰属バイアス

山岸俊男監修『社会心理学』(22)

前回は、第3章 社会の中の個人 のうち、「内発的動機付け」であった。次に「自己効力感*1」、「セルフ・モニタリング*2」と続くが、これは面白くないので省略する。

次は、第4章 対人認知と行動 である。最初に「対人認知」であるが、簡単に見ておこう。

対人認知…他人の性格、欲求、感情、意志、思考などを認知すること。人間が社会生活のなかでどのように対人知覚を行なっているかが社会的行動理解のための基礎的問題となっている。(ブリタニカ国際大百科事典、対人知覚)

では、どのように他人の性格、欲求、感情、意志、思考などを認知するのか?

暗黙のパーソナリティ理論…一般の人が日頃抱いている、人の性格についての素朴な信念のこと。これによって、例えば美人は性格の良い人だなと思う。「素人の人格理論」と呼ばれる。先入観や知識が対人認知を歪める。知識の形成にはテレビの影響も大きい。(本書)

先入観や知識がいかにして形成されるのかが問題である。「素人の人格理論」というが、「専門家の人格理論」などというものがあるのだろうか? 先入観や知識を前提にしない対人認知はありえないだろうし、それらは固定的なものではない。ただ、先入観や知識が意図的に形成されることがあり得ることには注意しておかなければならない。

 

原因帰属

次は、「原因帰属」である。

帰属…出来事や他人の行動や自分の行動の原因を説明する心的過程のこと、すなわち誰かもしくは何かのせいにすることである。

帰属の二つの主要なタイプは、内的帰属と外的帰属である。簡単にいえば、人柄のせいにするのが内的帰属であり、事情のせいにするのが外的帰属である。内的帰属では、行動の原因は、個人の性格や態度や特質や気質のせいであるとされる。外的帰属では、行動の原因は、行動が行われた周囲の状況であるとされる。この二つのタイプのいずれを選択するかにより、行動を行った個人に対して、全く異なった見方が導かれる。(Wikipedia、帰属)

他人は何故そのような行動をとるのか。自分は何故そのような行動をとるのか。個人(他人や自分)の性格や態度や特質や気質(個人の特性)のせいなのか。周囲の状況(環境)のせいなのか。

その行動が社会的に認められない(と考えられる)行動ならば、個人の特性なのか環境なのかによって、その対処の仕方が異なってくるので、これをどう考えるかは社会的影響が大きい。

「個人の特性」が「環境」とは独立に形成されることはまず考えられない(個人の特性は、遺伝的なものに限られるわけではなく、環境の影響を受ける)ので、どちらか一方に帰属させようとすること自体ナンセンスであるように思われる。

 

本書で、原因帰属に関して、「因果スキーマ」について説明されている。

因果スキーマ経験によって獲得している因果関係についての知識。ある行動が起こったときに、その人の内面や状況についての情報が不足していても、因果スキーマを使って原因を推測することが多い。(本書)

「因果スキーマ」などと言うと、何か高尚な理論のように聞こえるが、「他人や自分が何故そのような行動をとるのか」を考える場合、「自分の過去の経験」から推測することが多い、という当たり前のことを述べているに過ぎない。

であれば、他人や自分の行動の原因を推測する場合に、バイアス(偏り)が生じることは避けられない。

人は客観的な観察者としては存在してはいないため、社会的世界の偏った解釈によって、バイアスのある解釈を行いがちである。

 

帰属バイアス

Wikipediaは、帰属バイアスを4つあげている。

1.根本的な帰属の誤り*3

このエラーは他人の行動について帰属を評価する際に、状況要因[環境]による影響評価を最小化し、一方で気質要因[個人の特性]の影響評価を必要以上に最大化するものである。例:ある人が会議に行く途中で、同僚が誰かにぶつかるのを見た場合、この行動について「同僚は会議に遅れている」と言うよりも、「あわてんぼうな同僚が注意力散漫になって人にぶつかった」と解釈する可能性が高くなる。

その他人がどのような状況(環境)に置かれているかを考慮せず、特性に原因を求めるというバイアスは、よく見られる。ロシアのウクライナ侵攻をプーチンの気質(特性)に求めようとする傾向など、根本的な帰属の誤りと言えよう。

2.行為者-観察者バイアス

他者の行動については気質要因を過大評価することに加えて、自分の行動の気質要因を過小評価し、状況要因を過大評価する傾向がある。

次の具体例がわかりやすい。

例えば、他人が仕事に遅刻したとき、その人がだらしないせいだと思う人が多い。一方で、自分が仕事に遅刻したとき、自分のせいにするのではなく、なんらかの外的状況のせいにする人が多い。これは、電車の遅延などが起こったことなどを、自分ならよく知っているからである。このように、行為者(自分)と観察者(他人)によって情報量に差が生じてしまうことが、行為者-観察者バイアスの一因である。…このように、行為者(自分)は、自分の視点から判断しがちである。観察者は、行為者と別の人を対比しながら観察することができるため、状況よりも人の違い(特性)に注目してしまう。観察者には、人との比較だけでなく、その人の状況を想像する共感能力が必要となってくる。(ITカウンセリングLab、https://it-counselor.net/psychology-terms/actor-observer-bias

ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、ロシアの置かれていた状況を分析する必要がある(ロシアの侵攻を正当化するものではない)。プーチン個人の領土拡張の野心と片付けて済むものではないだろう。この点で、マスメディアの報道にも「行為者-観察者バイアス」を感じる。

3.自己奉仕バイアス(利己的な帰属)

[自分の行動については]成功を当人の内面的または個人的要因に帰属させ、失敗を制御不能な状況的要因に帰属させること。自己奉仕バイアスは、成功は自分の手柄とするのに失敗の責任を取らない人間の一般的傾向を表している。それはまた、曖昧な情報を都合の良いように解釈しようとする傾向として現れるとも言える。

(例)重大な業務上の災害の被害者は、その原因を外的要因に帰する傾向があるのに対して、その同僚や管理職は被害者自身の行動に帰する傾向がある。

交渉において双方が自分側に都合の良いように事実を解釈すると、自己奉仕バイアスによって問題が発生することがある。このような場合、一方の側はもう一方がはったりをかけているか、妥当な和解をするつもりがないと考え、相手側が悪いと断じて交渉を打ち切ることになるかもしれない。(Wikipedia、自己奉仕バイアス)

「自己奉仕バイアス」は、「利己的なバイアス」(Wikipedia、帰属)と言った方がわかりやすい。

上記ITカウンセリングLabは、次のように説明している。

例えば、仕事がうまくいったとき、自分の能力が高かったからだと考える。一方で、仕事がうまくいかなかったとき、上司や部下に恵まれなかったからだとか、運が悪かったからだと考える。これは、自己肯定感(自尊心・自尊感情)を守ることで、動機づけ(モチベーション・やる気)を高めるためとも考えられる。*4https://it-counselor.net/psychology-terms/self-serving-bias

これは、とりわけ競争的組織において見られるバイアスであり、共創的組織においては見られないだろう。

4.敵意帰属バイアス

ある人が他人の曖昧な行動について、それを好意的ではなく敵対的と解釈するバイアス。(例)子供は、別の2人の子供が囁いているのを目撃した場合、彼は自分について否定的なことを話していると思い込むことがある。この場合、他の子供たちの行動は潜在的に好意的な帰属であったとしても、彼は敵対的な帰属としていた。研究によると敵意帰属バイアスと攻撃行動には関連性があり、他人の行動を敵対的であると解釈する可能性が高い人は、攻撃的な行動をとる可能性も高くなっていた。

他人Aが自分Bの言動について、自分が論理的な議論をしているにもかかわらず、自分の中に「敵意」を見出し、それが自分の言動の原因であるとみなす。その時、他人Aは「敵意帰属バイアス」に陥っている。身近なところでは、職場の中で、敵意帰属バイアスに陥っている人をみることがあろう。どうすべきか。議論に勝つ(自分の正当性を主張する)のではなく、度量を大きくしてAの主張をよく聞き、一致点を見出していくことである(物理的な攻撃など論外である)。頭の体操で、他人Aをロシア、自分Bを欧米とおいてみよう。また、この逆をも考えてみよう。

Anxiety, Frustration, Repressed Hostility. Boris Artzybasheff, 1947, published in Life Magazine. (https://freethoughtblogs.com/affinity/2018/07/08/the-healing-arts-anxiety-frustration-repressed-hostility/

*1:自己効力感(セルフ・エフィカシー)…ある行動を行う際に、自分はうまく成し遂げることができる(自分ならできる)という確信のこと。反対に、解けるはずのない問題を与えられ、自分を無力と思う(学習する)のが学習性無力感。(本書)

*2:客体的自覚理論(セルフ・モニタリング)…周囲よりも自分自身に注意が向いているとき、人は理想の基準に合っているかどうか現実の自分を評価しようとする。現実が理想通りではない場合、その不快感を解消しようとするという理論。(本書)

*3:本ブログの パワハラと「根本的な帰属の誤り」(2020/9/25)でとりあげた。

*4:良い出来事は自分の内的な特性(能力)のおかげだと思うことは、一度成功した成功体験を継続することに効果がある。ただし、状況(環境)の変化についていけなくなる恐れがあり、悪くすると成功体験への固執につながる。悪い出来事は外的な状況(環境)のせいだと思うことは、人生の挫折体験を克服することに効果がある。(ITカウンセリングLab)