長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(17)
今回は、第11章 知覚 の「形の知覚」である。
例えば、次の絵を見て下さい。
Allison Stewart, Paysage 3, oil and mixed media on canvas, 48 x 36" https://www.houzz.jp/projects/2572255
これをみて、どんな「形」を、知覚(認知)するでしょうか? 形はあるのでしょうか、それとも無いのでしょうか?
形の知覚
形の知覚とは何だろうか。
心理学用語。二次元あるいは三次元の事物や対象から,その形状ないしは形態の属性を抽出し,その特徴を把握する過程。視覚による形の知覚には,図と地の関係を把握する過程とその形を構成している線,辺,角,面などの特徴をとらえ,その全体的な構造を認知する過程とが含まれる。(ブリタニカ国際大百科事典)
図と地の関係と言えば、「ルビンの壺」が有名だが、ここでは違う画(版画)を見てみよう。有名なエッシャー*1の「昼と夜」という作品である。
Day and Night (1938) http://www.geocities.jp/syu_58jp/ega/11.JPG
この画は、「人は、モノをいかに見ているのか?」という観点から、実に興味深い。あなたには、どう見えますか?(よく見た後に、Primaveraxさんの解説 ミラクル エッシャー展 感想 - 展覧会感想 を読んでみて下さい)
エッシャーの作品をよく見た後に、再度、ブリタニカの解説の続きを読もう。
原初的な図と地の構造は,先天的な神経機構に依拠して成立するが,形を識別する過程は先天的な仕組みがそなわっているだけでは不十分で,生後の長期にわたる学習によって初めて形成される心的機能であると考えられる。形の識別過程は,成人の視覚についてはきわめて短縮されており,特殊な条件下におかれないかぎり,その全体的な構造は即座に把握される。これに対し,同じく視覚を介しても,開眼手術を受けたばかりの先天性盲人の眼では,簡単な幾何学的図形でさえもその全体を即時的にとらえ,識別することができず,術後の組織的な学習を経て初めてそれが可能になるとする M.V.ゼンデンの実験結果 (1932) があるが,これについてはのちに D.O.ヘッブらによって疑問が提出されている。(ブリタニカ国際大百科事典)
形の識別は、「学習によって形成される」という点と、「成人は…全体的な構造を即座に把握する」という点に留意しよう。もしエッシャーの画をみて、全体的な構造が即座に把握できなければ、学習不十分な未成年である(かもしれない)。
反転図形が示唆するところは、まず第1に、「昼をみれば夜が見えない、夜を見れば昼が見えない」というものである。私たちは通常、一方しか見ないことが多い。他の見え方があるということを理解せず、決めつける。明るい未来を見れば、暗い未来が見えない。暗い未来を見れば、明るい未来が見えない。
第2に、昼と夜(白い鳥と黒い鳥)は同時に在るということである(昼と夜の共時性)。但し、並列して在るのではない。不可分離なものとして在るということである。それを分離して見るのは、心の働きである。「分かる」とは、分離するということでもある。分かったが故に、大事なものを捨象してしまう。「Aとも言えるし、Bとも言える」と言うべきである。
エッシャーの作品は、反転図形以上のことを表現している。白い鳥はどこから生じてきたか、黒い鳥はどこから生じてきたかを見てみよう。横方向だけでなく、縦方向にも注目しよう。「地」から「図」(鳥)が生じていることが見て取れる。地と図が截然と区分されているわけではない。生命の起源をさえ想起させる。
さらに、教会、風車、運河を描いていることは何を意味しているか。これは日常なのであり、現実なのである。だが同時に、夜の教会、夜の風車、夜の運河も存在する。日常と非日常(反日常?)。
ここであらためて、図と地の説明を見ておこう。*2
対象の形を知覚するためには、対象を背景から分離し、まとまりとして取り出す必要がある。これを図と地の分化と呼ぶ。まとまりのある形として見える部分を図と呼び、その図の背景となっている部分を地と呼ぶ。図と地の分化が生じたとき、次のような特徴を持つ。
- 図は形を持ち、地は形を持たない。図と地の反転が生じても、両方が同時に形を持つことはない。
- 図と地を区切る境界線は、図の方に属しているように知覚される。
- 図は手前に浮き出ているように知覚され、地は背後に広がっているように知覚される。
また、見ている対象に複数の図があれば、それらがまとまりをもって知覚されることがある。このまとまりを知覚的群化、または群化と呼ぶ。図のまとまり方には、以下のような法則性があり、ゲシュタルトの法則とも呼ばれる。(以下、略)
https://kagaku-jiten.com/cognitive-psychology/perception/pattern.html
本書は、まとまりを形成する要因を、群化の要因あるいはゲシュタルト要因と呼び、4要因を挙げている。
ゲシュタルトとは何か。(以下、酒井涼、「ゲシュタルトの法則とは?ノンデザイナーこそ知っておきたい法則を解説 」より引用)
人間は「部分の総和」ではなく全体性をもったまとまりのある構造を認識する傾向にあり、この全体性のある構造のことを、ドイツ語でゲシュタルト(Gestalt、形態)と呼ぶ。
単純に「形態」ではなく、「全体としてまとまりのある形」と覚えておこう(「構造」という言葉をあまり使いたくない)。ただし、「全体としてまとまりのある」と言っても、何のことかわからない。ゲシュタルトの基本7法則を理解しよう。(酒井は、図解入りで分かりやすく説明しているので、参照されたい。)
①近接の法則 (Law of Proximity)…距離が近いもの同士を、同じグループだと認識する。
②類同の法則 (Law of Similarity)…同じ色や同じ形、同じ向きのもの同士を、同じグループだと認識する。
③連続の法則 (Law of Continuity)…連続している図形は、一つの図形として認識する。
④閉合の法則 (Law of Closure)…閉じた形をしているものは、1つのグループだと認識する。
⑤共通運命の法則 (Law of Common Fate)…同じ方向に動くものや同じ周期で点滅するものなどを、同じグループだと認識する。
⑥面積の法則 (Law of Area)…重なっている2つの図形では面積の小さいほうが手前にあるように見える。
⑦対称の法則 (Law of Symmetry)…左右対称な図形ほど、一つのグループとして認識されやすい。
これらの法則により、ある要素が「全体としてまとまりのある形」(ゲシュタルト)として認識される。
酒井は面白い話をしている。
ゲシュタルト崩壊…ゲシュタルトの法則がうまく当てはまらなくなった状態のことを指す。つまり、図形や文字などの全体像を把握することができず、構成する部分を部分的にしか認知できなくなった状態のことである。
昨今見かける「ブルータリズム」のウェブデザインはある種の「ゲシュタルト崩壊」を意図して再現したホームページだと言うことができます。
そして、そのようなホームページを紹介しているので、一つだけリンクを張っておこう。→ Armin Unruh