浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

生物とは「情報機械」なのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(7)

今回は、第1章 生命科学の急発展と「遺伝子」概念の揺らぎ 第3節 ネットワークとしての生命 第2項 システム生物学の登場 である。

 

バイオインフォマティクス(生命情報学)

金子邦彦は、遺伝子・タンパク質などをすべて枚挙し、その地図をつくっても、「生命とは何か、わかった気がしない」と述べていた。

つまり、あまりに詳細で具体的な知識は、「生命の本質」というような抽象度の高いレベルでの理解をかえって遠ざけてしまうのである。やや粗雑な比喩かも知れないが、一人の人間の一日のふるまいを詳細に記述すればするほど、「日本人のライフスタイル」や「ヒトとは何か」といったレベルのことが分からなくなっていくようなものだ。「理解する」とは、具体的なデータを大量に蓄積することではなく、複雑な現象や大量のデータをきれいに整理してくれる、シンプルで説得力のある「理解枠組み」を見てとることにある。

「複雑な現象や大量のデータ」を前に、それをどう理解(解釈)するか。「理解枠組み」とは、どういうものか。…「枠組み」なしに「理解」することは不可能だろうが、それは「型にはめる」ものとならないか。重要なデータを捨象してしまうことにならないか。モデルを現実と考えてしまわないか。これは「科学哲学」の問題だろうが、いずれ検討しよう。

分子生物学はもともと、「生物とは情報機械である」という理解枠組みを示すことで、「生命とは何か」という問いに対してシンプルでクリアな回答を与えるものであった。生物が卵から発生したり活動したりするときには遺伝情報が読み取られ、機能部品(タンパク質)が作られる。生物が子孫を残すときには遺伝情報が複製される。生命現象の本質は情報の伝達と複製であり、生物は情報の読み取りや複製を行う機械である。こうした理解枠組みがうまくいったことは、現在に至る生物学の発展をみれば明らかである。

「生命現象の本質は情報の伝達と複製であり、生物は情報の読み取りや複製を行う機械である」というが、何故これが「生命現象の本質」であると言えるのか。この文で重要なのは、「情報」と「機械」の意味であろう。漠然と「情報」と「機械」の意味を理解していて、「生命現象の本質」であると主張することはできない。もちろん、山口はきちんと理解して書いているのだろうが、その説明がないので、本当にそう言えるのかどうかよくわからない。なお、「シンプルでクリアな回答」が望ましいものであるとは、一般的には言えないだろう。但し、勿論、「情報の伝達と複製」の視点から、生命現象の解明が進んできたことを否定するものではない。

膨大なデータの蓄積は、より多くの「知識」を獲得したことにはならない。山口は、「DNAは情報保持、RNAは情報伝達、タンパク質が酵素などという、分子の種類と機能との単純な対応を主張することは難しくなっており、遺伝子や転写産物やタンパク質の機能を再考することが必要である」と述べている。

 

また、バイオインフォマティクス(生命情報学)というが、そこで扱われる「情報」は、古典的な分子生物学で遺伝子が持つとされた「情報」(タンパク質のアミノ酸配列情報や発現制御の情報)にとどまるものではなくなっている。「生物は情報機械であり、生物学は情報科学である」という見方は、情報科学者の参入によってますます強固になっており、生物学研究において「情報」という言葉が氾濫している状況なのだが、その一方で、あるいはそれゆえにこそ、生物が持つ「情報」とは、何が媒体で、何を表現しており、誰が(何が)その情報を受け取るのか、といった基本的な部分が曖昧になってきているように思われる。

ふーむ。生物情報の「媒体」、「表現内容」、「情報を受けとるもの」が曖昧になってきている。…これを「問い」の形にしてみよう。生物が持つ「情報」の媒体は何か? 生物が持つ「情報」は何を表現しているのか? 生物が持つ「情報」は、誰が(何が)受信(&発信)しているのか? これらの問いに、生物学者は答えているのか。情報科学者は答えているのか。

 

Wikipediaバイオインフォマティクスbioinformatics、生命情報科学)を何と説明しているか。

生命科学情報科学の融合分野のひとつで、DNAやRNA、タンパク質の構造などの生命が持っている「情報」といえるものを情報科学統計学などのアルゴリズムを用いて分析することで生命について解き明かしていく学問である。…主な研究対象分野に、遺伝子予測、遺伝子機能予測、遺伝子分類、配列アラインメント、ゲノムアセンブリ、タンパク質構造アラインメント、タンパク質構造予測、遺伝子発現解析、タンパク質間相互作用の予測、進化のモデリングなどがある。近年多くの生物を対象に実施されているゲノム・プロジェクトによって大量の情報が得られる一方、それらの情報から生物学的な意味を抽出することが困難であることが広く認識されるようになり、バイオインフォマティクスの重要性が注目されている。(Wikipedia

バイオインフォマティクスにより、どれほど「生物学的な意味」を抽出することができるようになったのか興味あるところである。後で説明があるかどうか。

 

アラインメントとは、

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似た者同士のカップルって長続きする? https://smartlog.jp/148026

 

核酸配列あるいはアミノ酸配列を、似ている部分を同じ位置になるように並べることをアラインメントという。例えば、次のような 2 つのアミノ酸配列があり、

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これをアラインメントすると、次のようになる。(次の例では、アラインメントの結果を見やすいように、配列 A と配列 B の文字が一致するとき「|」を付けている。)

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(中略)ミスマッチの原因は、進化過程において配列上で起きた置換が主な原因である。また、ギャップは、進化過程において配列上で起きた挿入あるいは欠損などが主な原因と考えられる。(https://bi.biopapyrus.jp/seq/alignment/ 参照)