浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

M字カーブ(女性の労働力率)を考える

香取照幸『教養としての社会保障』(11)

今回は、第4章 変調する社会・経済 第2節人口オーナスとライフスタイルの変化 の続きである。

人口ボーナス・人口オーナス(「少子高齢化」を言い換えたものと考えてよい)と社会保障の関係については、次図がその問題性をよくあらわしている。*1

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「支え手」が少なくなることが予測されているから、(現在の社会保障レベルを維持するためには)「支え手」即ち「総人口に占める労働力人口の割合」を増やすしかない、と香取は言う。

どうやって増やすのか。

  1. 働けるうちは高齢者にも働いてもらう。
  2. より多くの女性が働くようにする。
  3. 若い世代をフリーターなどで無駄に使わないで、きちんとフルタイムで働いてもらう。

こういうことしかないと言う。本当にそうだろうか。

「問い」は何であったか? 「少子高齢化の進行のなかで、現在の社会保障レベルを維持・向上させるためにはどうすれば良いのか」ということであったと思う。

こういうふうに問いをたてると、次のようなことが思い浮かぶ。*2

  • 税金をより多く投入する
  • 外国人(難民)を受け入れる
  • 住宅援助(空家対策)をする

「保険と税」、「消費税」、「累進課税」、「相続税」等々、社会保障に関連する税金の問題は幅広い。

外国人を受け入れれば、労働力人口は増える。社会保障を「国内問題」にとどめるのではなく、グローバル・コミュニティの問題として捉えるべきだろう。

住宅(土地)の私有・共有・賃貸に関するあるべき姿は、社会保障との関連で考えなければならない。「所有」の問題

 

香取が述べる「労働力人口」を増やす3つの方策については、確かに政府はこういう政策を推進しようとしているだろうけれども、うまくいっているのかどうかよく検証しなければならない。しかし、ここではデータに基づく検証をするつもりはない。

ただ、こういった方策は、基本的には民間企業が実施するものであり、政府はこれを強制することはできない。実効性があるのかどうか疑わしい。結局は、負担増・給付減になるのではないか。だとすれば、抜本的な見直しが必要だろう。*3

 

香取は、労働力人口を増やすために、特に「女性にもっと働いてもらい、子供を産んで育てることと働き続けることが、誰にでもできるようにしなければならない」と述べている。

女性の労働力率を示す「M字カーブ」がある。(本書のグラフは、2015年が最新であるが、2019年版男女共同参画白書では、2018年が最新なのでこれを示す)

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女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は,結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇するM字カーブを描く)というが、当然だろう。

上図を見れば、M字カーブが見られなくなってきている。それは晩婚化・少子化の結果であると考えられるが、詳細は、未婚・既婚の割合、子どもの数等さまざまな要因があろう。

香取は述べている。

  • 結婚・子育て期の未婚女性と有配偶女性とでは労働力率に大きな差がある。
  • 仕事を続けている女性は結婚しない、子どもを持たない。正確に言えば、結婚したくてもできない、子どもを持ちたくても持てない。
  • 20年先に働き手となる子どもを確保しつつ、今も働いてもらう。子どもも産んで、子育てもして、仕事をもしてと、とにかく何でもかんでも女性にやってください、と言っているのが今の政権である。ならば、そうできる環境を整えなければならない。
  • そこを解決するのが、これからの社会保障のポイントである。両立支援がキーワード。
  • この問題の解決は政府だけではできない。企業の行動変容が極めて重要である。

「結婚・子育て期」の女性も働けるように「両立支援」が必要であるというようにも受け取れるが、ここは要注意である。私は「育児期間」とりわけ「授乳期間」が確保されることが必要であると考えている。それはどれくらいの期間だろうか?

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赤ちゃんにあげる母乳はよいことずくめ、とは限らない(https://medicommi.jp/9000

 

  • 世界保健機関(WHO)は2年以上の母乳育児を推奨している。
  • 人類学の観点からすると、2年半~7年の母乳育児が最適だと思われる。しかし、今日の文化的規範では一般的にもっと幼い年齢での断乳が必要とされる。
  • 母乳育児は、①食べ物、②良薬、そして同時に、③シグナルであると考えることができる。
  • ①食べ物…赤ちゃんが補完食を食べ始めた後でも、母乳は相当量の栄養を提供している。
  • ②良薬…6か月目以降も授乳を続けることは小児病および成人病のリスクを下げる。母乳育児は生涯続く潜在的な効果を伴って赤ちゃんを感染症や病気から守り、それは「パーソナライズされた薬」の一形態であるとも考えられる。6~23か月目に母乳育児をしていないことによる結末は、低所得および中所得の国々では悲惨なものである。
  • ③シグナル…母親と赤ちゃんの間のシグナルは、子どもの発達に対して、食欲から学力まで多くの面で影響する。6か月を超える母乳育児は、学齢期における問題行動が少ないことや青少年期における精神面での健康の改善にも関連がある。

以上、6か月目以降の授乳: どのようなメリットがありますか?より。

 

母乳育児の必要期間や効果についての科学的議論はあるかもしれないが、(素人考えでは)上記記述は概ね妥当のように思われる。

ここで言いたかったことは、母乳育児は男性で代替できないものであること(男性育児休暇の必要性は限定的であろうこと)、母乳育児の必要性が認識されるならば、M字カーブは必然的であり、その解消が目指されるべきものであるとは言えない、ということである。

育児期間(授乳期間)には働かなくても良く、育児期間(授乳期間)を過ぎれば働けるようになる社会こそ、望ましい社会ではなかろうか。

*1:2019/11/19 人口減少、少子化、高齢化の衝撃 参照

*2:これは、「思いつき」を並べてみただけであり、「読書ノート」を続けるなかで考えていくことにしたい。

*3:こういった評論は誰でも言える。…これまで、さまざまな社会保障改革の議論がなされてきているはずである。それらを踏まえた上での議論でなければ、建設的であるとは言えないだろう。