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COVID-19:問われる感染症専門家の役割

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(77)

※ 当ブログのCOVID-19関連記事リンク集 → https://shoyo3.hatenablog.com/entry/2021/05/06/210000

今回の記事タイトルをいろいろ考えてみたが、「問われる感染症専門家の役割」という無難なものにすることにした。*1

今回は、「感染症専門家有志」による「2020年東京オリンピックパラリンピック競技大会開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大リスクに関する提言」(2021年6月18日)*2を読んで、思うところを述べる(一庶民の感想である)。

 

最初に、「感染症専門家」とはどういう人なのか? 厚労省の「感染症危機管理専門家(IDES:Infectious Disease Emergency Specialist)養成プログラム」というページ(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ides/index.html)が参考になる。

  • 感染症専門家とは、国内外の新興・再興感染症の危機管理に対応できる人材である。
  • 国内外の感染症の知識、行政能力(マネージメント)及び国際的な対応能力が必要とされる。

もう少し具体的には

  • 国レベルでの感染症分野の行政能力…(厚労省において)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律感染症危機管理の指針、行動計画、他省庁との連携等の業務に携わることによって習得される。
  • 検疫分野の行政能力…(検疫所において)検疫法、健康監視等の監視体制、疑似症患者への対応、搬送等に関する関係機関との調整等の業務に携わることによって習得される。
  • 基礎分野における感染症の専門知識…(国立感染症研究所において)感染症情報(疫学)センター、積極的疫学調査、国民やマスコミ向け情報提供、感染予防ガイドラインの作成等の業務に携わることによって習得される。
  • 臨床分野における感染症の専門知識…(国立国際医療研究センター国際感染症センターにおいて)感染症の診断・治療の実務、臨床医の適切な対応、人材育成(研修生の受け入れ)等に携わることによって習得される。
  • 国際的なレベルでの行政能力(マネージメント能力)…(米国疾病管理予防センターCDC等の)各専門機関が主催する研修プログラムへの参加、調査研究、ガイドラインの作成、関係機関との調整等に携わることによって習得される。

以上のような、行政能力、専門知識を有する者が、「感染症専門家」ということができる。「感染症」に関する専門知識だけでなく、「行政能力」が必要とされていることが注目される。

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https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61191540W0A700C2EA2000/

 

今回の提言に名を連ねている専門家有志が、上記の専門知識、行政能力を有しているのか否かは、肩書を見ただけでは判断できない。

提言メンバーは、「新型コロナウイルス感染症対策 分科会」メンバーが9人、その他が17人である。分科会メンバーの11人*3は、本提言に名を連ねていない。肩書だけで判断すると、提言参加者はいずれも医学系である。提言に参加していない分科会メンバーは医学系ではない。

本提言は、2020年東京オリンピックパラリンピック競技大会開催に関連するリスクの評価及びそのリスクの最小化に向けた考えを述べるものである(大会の開催の有無やそのあり方について提言するものではない)ため、ある意味、当然のメンバーかもしれない。

しかし、「大会開催に関連するリスク」をどの範囲のものと捉えるかが問題である。例えば、「無観客とすることは、感染拡大のリスクを最も軽減できる」のは当然であるが、「無観客とすることによる経済損失のリスク」をどう考えるか。これは医学系(医療系)メンバーだけで評価できるものではない。「感染症専門家」に要請される「行政能力」とは、このような「感染拡大のリスク」以外のリスクをも評価できるものでなければならないと考える。

 

提言の全文を一通り読んでみたが、「感染症専門家」と称される人のこれまでの意見とほとんど何も変わらないという印象である。

提言の[1]はじめに の第4項では、次のように述べられている。

この提言の目的は、2つあります。

まず、多くの地域で緊急事態宣言が解除される6月20日以降、本大会期間中を含め、ワクチンの効果等により重症者数の抑制が期待できるようになるまでの間、感染拡大及び医療逼迫を招かないための提言をすることです。

そして、本大会に関連して大会主催者や関係者に適切な判断をして頂くため、直接的および間接的なリスクを評価することです。

要は「感染拡大・医療逼迫を招かないようにする」ために、「人流・接触機会や飲食の機会を増やすようなことはやめよ」ということである。これまでと同じ。(全文を読んでそう思った)。

 

この提言がなぜ政府や(私のような)庶民の一部になぜ響かないか。(政府の声が響くと言っているわけではない)。

それは、これまでの(「感染症専門家」と称する人たちの提言を受けた)政府や都道府県の対策にほとんど何も効果が見られないからである(これはちょっと言い過ぎか)。

  • 飲食業や観光業をターゲットに、人流・接触機会の減少を図るという対策がどれほどの効果をあげたのか。その分析もなく、相も変わらず人流を減少せよと言っている。
  • 飲食業や観光業及びその関連業種(産業)の経済的苦境→解雇(失業)→生活破綻、うつ病発症(自殺)というマイナス効果を考慮しない。ある対策を提案するなら、そのマイナス面を検討するのは当然である。感染症の重症者・死者さえ減少すればよいというものではない。
  • 人流増→感染者増→重症者増→死者増という雑な推論(風が吹けば桶屋が儲かる)で、本当に対策できると思っているのだろうか。
  • 重症者が問題だというなら、なぜ重症者の定義を統一しないのか。
  • ある時点の重症者数だけ把握して、増えた・減ったと言っておればそれでよいのか。その数字を把握したら、何ができると言うのか。中等症→重症、重症→死亡、重症→中等症、後遺症を把握しないで、分析も何もないだろう。
  • 重症も死亡もそうだが、性別・年齢・渡航歴(国、地域別)・基礎疾患・過去現在の病歴・人種・身体特性(喫煙歴・肥満度等)・住所・発症場所・生活環境・職種・所得階級等々さまざまな要因がある。重症や死亡に寄与する要因で大きなものは何か。
  • いかに感染者数が増えたとしても、無症状や軽症なら、何も問題はないだろう。無症状や軽症でも重症になる人がいるというなら、それはどの程度の割合なのか。何も情報が無いというのは分析していないということではないか。
  • 無症状でも他人に感染させるというなら、それはどの程度の割合なのか。うつされた人は無症状、軽症、中等症、重症のいずれで、どの程度の割合なのか。「可能性がある」というだけなら、ド素人でも言える。「感染症専門家」と称する人たちは、このような分析をしないのだろうか。
  • かつて「ファクターX」が話題になったが、「感染症専門家」と称する人たちは、ファクターXを解明したのか。ファクターXを解明せずして、適切な対策をとれるのだろうか。
  • また、ファクターXとは関係なく、各国・各地域での感染・重症・死亡の差異をどう分析しているのか。
  • 変異株の流行は、検疫の甘さなのではないか。「感染症専門家」と称する人たちは、検疫がいかにあるべきかを検討したのだろうか。提言には「検疫」のケの字もでてこない。
  • ウガンダ選手が陽性になったと話題になったが、検査機器や判定基準の差異をどう考えているのだろうか。
  • 検査して、隔離して、感染者増を抑える。ただこれだけで良いのか。
  • 医療逼迫が問題ならば、人流抑制ではなく、臨機応変な医療体制の整備を第一に問題とすべきだろう。臨機応変な医療体制の整備のために何が必要なのか、何か提言しているのだろうか。
  • 人流を抑えることが重要だというなら、各国・各地域での人流と感染・重症・死亡の関係をどう分析しているのか。

以上、思いつくままに「感染症専門家」と称する人たちへの不信・不満をあげてみたが、これらに対する納得のいく説明を聞いたことがない。

付け加えておくと、政府が正しいと言っているわけではなくその逆である。与党も野党も、詳細な分析なく(事実を把握することなく)、ただ、ごちゃ混ぜの「感染者」のみに着目して騒いでいるという感じである。そうでないというなら、事実(データ)と分析を示して欲しいものである。

*1:「コロナ教団の内部分裂」とか、「無為無策感染症専門家」とか、「感染症専門家という名の犯罪者集団」とかいろいろ浮かんだが、週刊誌の釣りタイトルでもあるまいし、金儲け(アフリエート)のためにブログを書いているわけではないので、穏当なタイトルにした。反発を招くような表現は、対話を阻害するものでもある。1対1で、面と向かって話し合おうとするとき、このような言葉遣いをしないはずである。

*2:https://s3-us-west-2.amazonaws.com/jnpc-prd-public-oregon/files/2021/06/7140593d-5538-4b53-8359-a016c21cd37d.pdf

*3:石川晴巳(ヘルスケアコミュニケーションプランナー)、石田昭浩(日本労働組合総連合会副事務局長)、大竹文雄大阪大学大学院経済学研究科教授)、小林慶一郎(公益財団法人東京財団政策研究所研究主幹)、幸本智彦(東京商工会議所議員)、中山ひとみ(霞が関総合法律事務所弁護士)、平井伸治鳥取県知事)、南砂(読売新聞東京本社常務取締役調査研究本部長)、武藤香織(東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授)、磯部哲(慶應義塾大学法科大学院教授)、河本宏子(ANA総合研究所会長)