浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

2016-01-01から1年間の記事一覧

私は「操り人形」か?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(29) ラマチャンドランは、「自己を特徴づける特性」について、ポスドクの研究生ウィリアム・ハ―スタインと、以下のようなリストを作った。 体現化された自己 感情の自己 実行の自己 記憶の自己 統合…

「音楽は国境を越える」というイデオロギー?

岡田暁生『音楽の聴き方』(12) いま読んでいる箇所は、第3章「音楽を読む-言語としての音楽」である。音楽を読むとは、音楽(クラシック音楽)は、言語的な構造を持つので、それは「読む」ものでもある、ということであった。 音楽は聴くものであると…

「思いやりの原理」で、話し合うこと

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(3) 「今度の休日にどこへ出かけようか」の楽しい話や、「新商品Aの販促にどういう手を打つか」のビジネス上の問題、さらには「難民をどう支援するか」のシリアスな問題など、話し合い(議論)を必要とする無数の問題…

功利主義(2) その問題点は?

平野・亀本・服部『法哲学』(21) 功利主義の考え方は、これまで様々に批判されてきたが、平野はこれを整理している。 ①個々人の別個独立性に真剣な考慮を払っていない。 功利主義の方法は、公平原則によって個人の善観念に等しい重要性を与えるから、そ…

不平等論(1) 「機会の平等」と「結果の平等」

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(6) 今回から、「第3章 なぜ不平等はいけないのか」に入る。 立岩 分配を考えるときに、それを強制を介さないで行うのがよいか、強制があってよいと考えるかで分かれる。…権利ということを少しだけでも強い意…

コルヴィッツの『農民』とミュラーの『ジプシー』

末永照和(監修)『20世紀の美術』(2) ケーテ・シュミット・コルヴィッツ(Käthe Schmidt Kollwitz、1867- 1945)は、ドイツの版画家、彫刻家。 ベルリンとミュンヘンで美術を学んだ後、1891年に貧民を治療する医師の妻としてベルリンの労働者街に住み…

ヒュームの法則は論駁されたのか?

加藤尚武『現代倫理学入門』(16) <……である>から、<……べきである>を導き出すことはできないか の話の続きである。 加藤は、自然主義的誤謬批判の立場とサルトル(フランスの哲学者、1905-1980)の実存主義とは、まったく変わりがないとして、サルト…

悲劇のロザリンド嬢? データ盗用の「二重らせん」論文?

吉成真由美『知の逆転』(13) ワトソンの著作『二重らせん』の内容紹介 生命の鍵をにぎるDNAモデルはどのように発見されたのか? 遺伝の基本的物質であるDNAの構造の解明は今世紀の科学界における最大のできごとであった。この業績によってのちにノーベル…

「8の字ダンス」をしているミツバチは、「意識」があるのだろうか?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(28) ミツバチは、いわゆるミツバチの8の字ダンスを含む、非常に精巧な形式のコミュニケーションをすることで知られている。偵察係のミツバチは花粉のある場所を見つけると巣に帰り、精巧なダンスを…

アラカルト3品 (Didulya,Diane Birch,Steve Barakatt)

軽快で楽しい曲です。 1.ディデューラ(Didulya、1969-)ベラルーシ生まれ 2.ダイアン・バーチ(Diane Birch、1983-)アメリカ生まれ 3.スティーブ・バラカット(Steve Barakatt、1973-)カナダ生まれ

その主張(意見)の根拠は?

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(2) 別に「論文」を書かなくても、自分の意見を言う場合に、どういう話し方をした場合に説得力があるか(合意を得やすいか)を考慮しておくことは有意義だろう。 前回宿題としたのは、「ある主張をしていて、文末(結…

功利主義(1) その特徴(特質)は何か?

平野・亀本・服部『法哲学』(20) 今回より、第4章 法と正義の基本問題(平野仁彦)に入る。第1節は、「公共的利益」である。 公共的利益とは、公の必要に関わる共通利益のことであるが、それには、平和、治安、秩序維持から、資源、環境、運輸、公衆衛…

市場万能論(3) 投資、投機、バブル

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(5) 立岩 この『「資本」論』[稲葉の著作]について言えば、ある種ポジティブな、いま考え中っていう以上のメッセージを受け取ってしまう。それは誤読であるということで終わるんだったら終わっていいし、そ…

野獣たち(フォーヴ) 色彩の奇行のなかで錯乱している

末永照和(監修)『20世紀の美術』(1) 最近、宇佐美圭司の「20世紀美術」を読み始めたばかりであるが、本書と並行して読むことにする。 ただ単に本書の内容を紹介・要約しようというのではない。本書の記述を参考に、「作品」を見て(WEB上でしかない…

自然主義的誤謬 ヒュームの法則 直覚主義(直観主義) 情緒主義(情動主義)

加藤尚武『現代倫理学入門』(15) 第7章 <……である>から、<……べきである>を導き出すことはできないか に入ると言いながら、本書を離れて、ウェーバーとシュモラーの「価値判断論争」を見てきた。しかし、あえて、その「まとめ」はしないでおく。 加…

本当の答えをみつけよう (ワトソン)

吉成真由美『知の逆転』(12) 今回は、ジェームズ・ワトソン(James Watson、1928-)に対するインタビュー。1962年、クリック、ウィルキンスと共に、DNA二重らせん構造の発見で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。インタビューは、2011年。 𠮷成…「…

クオリアの特徴 ためらいと決断

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(27) クオリアの話の続きである。クオリアとは、主観的感覚(「痛み」「赤」「トリュフ添えのニョッキ」といった主観的性質を感じる生[なま]の感覚)のことであった。このような主観的感覚は、どの…

クラシック音楽 コース料理 さすらいの楽師

岡田暁生『音楽の聴き方』(11) 岡田は、多楽章形式の音楽とはコース料理であるという。これは分りやすい喩えだ。 普通に考えれば、四楽章の交響曲といっても、そこには四つの別々の「曲」があるだけである、なのに、どうしてそれらが一つになって、もっ…

批判的思考 何故そのように主張するのか?

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(1) 本書は、クリティカルシンキング(批判的思考)の本である。「批判」とは、「ある意見を鵜呑みにせずによく吟味すること」である。私は、読み書きする時に、この意味で批判的でありたいと思っているが、これまで「…

水俣病(11) 「ミナマタ」のいま

水俣市は、2008年(平成20年)7月、国の環境モデル都市(低炭素社会の実現に向けて温室効果ガスの大幅削減などへの取り組みを行うモデル都市)に認定された。 環境都市・水俣市を訪ねて www.youtube.com 「道の駅みなまた」は、水俣市の中心街から2 kmほど…

リベラルな(自由放任の)正義論?

平野・亀本・服部『法哲学』(19) 今回は「第3節 リベラルな正義論と倫理学」である。 「よい行為・正しい行為とは、ルールに従った行為である」という考え方がある。 西洋の倫理思想上最も有名なルールは、黄金律であった。その肯定的な形態は、「他人…

市場万能論(2) 手続きが適正であるなら、どんな悲惨な結果になろうと受け入れるべきなのか?

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(4) 今回は、「第2章 市場万能論のウソを見抜く 第2節 分配の根拠を示す」である。(引用は、文意を損なわない程度に、若干変形したところがある) 立岩 どういう配分の仕掛けを考えるのがよいのか。…ある種…

近視眼のマチス ニンフと笛を持つパン

宇佐美圭司『20世紀美術』(1)*1 宇佐美は、マチス(Henri Matisse、1869-1954)の次の晩年の作品を、最高傑作の一つと評価している。 ニンフと笛を持つパン 1940-43 *2 https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/a3/f2/34/a3f234f87999e5291c8ba87ea4…

事実認識と価値評価(3) 普遍的な価値判断 (キリスト教の黄金律?)

加藤尚武『現代倫理学入門』(14) 今回は、前回に引き続き、本書を離れて、細見論文*1にしたがい、価値判断論争をみていくことにしよう。 価値判断論争とは、 価値判断は客観的に正当化されうるか。事実判断または事実認識は価値判断から中立でありうるか…

数学と経営 もしもし、スティーブ・ジョブスですが…

吉成真由美『知の逆転』(11) トム・レイトン(Tom Leighton、1956-)に対するインタビューの続きをみていこう。 多くのユーザーが、アノニマスなどのグループの掲げる目的や目標に、ある程度賛同しているんですね。「動物への虐待をやめよう」とか、け…

クオリアの特徴 黄色いドーナツと満月

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(26) ラマチャンドランは、クオリアとは、「痛み」「赤」「トリュフ添えのニョッキ」といった主観的性質を感じる生[なま]の感覚のことである、と言っていた。では、そのようなクオリアの特徴は、ど…

リオ・オリンピックに寄せて こんな曲はいかがでしょうか

ブラジルと言えば、「サンバ」のリズムを思い出しますが、ここで取り上げるのは「ボサノバ」です。ボサノバは、「第二次世界大戦後、アメリカ合衆国のポピュラー音楽の影響を受けてサンバはより現代的になり、都会の白人向けサンバとして生まれた」(由比邦…

命の限りに 蝉(セミ)が鳴く

今回は、前半でいささか思考をめぐらし、後半で感傷的な解釈をしましょう。 私たちにお馴染みの蝉の種類とその鳴き方は、次の通りです。 http://siritai-zatugaku.com/archives/944.html (http://yahuhichi.com/archives/342.html)より ちょっと、理科の知…

価値相対主義(2) 人間としての矜持を持つ

平野・亀本・服部『法哲学』(18) いま読んでいる箇所は、第3章 法的正義の求めるもの 第2節 価値相対主義 である。 本節では、イギリスの哲学者ムーア(1873-1958)の「自然主義的誤謬」や「直覚主義」や「情動主義」などのメタ倫理学について、簡潔に…

水俣病(10) 行政は、水俣病の「負」の主役である

行政とは、公務員の行為であるが、それは同時に、民主主義の理念を尊重する者にとっては、「私たち」の行為でもある。それゆえ、タイトルの「行政」は、「私たち」とも言い換えることができる。 2015年6月、衆議院調査局環境調査室は、「水俣病問題の概要」…