浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

COVID-19:冷静な分析を

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(30)

テレビの番組表や新聞を見ていると、やや落ち着いてきたかなと思う(8/16現在)。全国の新規感染者数は1,000人規模が続き、全国各地でクラスターが発生しているが、通常のニュースの扱いになってきたようだ。

しかし、これはCOVID-19について「学習」したからとは思えない。大まかに言えば、感染者数増のわりには、「死者数」がそれほど増えていないからだと考えられる。「死者数」が目立って増えてくれば、また大騒ぎするのではなかろうか。冬になり、感染者や死者が増えてきたらどうなるのだろうか?

私の「印象」を一言で言えば、大部分の人にとって「ただの風邪」(軽症)であり、高齢者や基礎疾患のある人にとって「危険な風邪」(肺炎等を引き起こす)である。ただの風邪が流行ったところで、毎日毎日、何人が風邪をひきましたと都道府県別に人数を集計して報道する必要があるのだろうか。

 

この印象を妨げるものは、COVID-19は「感染症」であり、世界全体の「感染者」と「死者」の爆発的な増大の事実である。これが「都市封鎖の映像」をもって、私たちの脳裏に「恐ろしい伝染病」として焼き付いてしまった。ジョンズ・ホプキンス大学新型コロナウイルス感染状況のダッシュボードは、そのイメージを強化してきたように思われる。2020/8/16 7:27:41現在で、感染者総数:2132万人、死者総数:77万人である。

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黒地に赤の配色は何か象徴的である。「武漢発のコロナ共産主義が世界を覆う」という恐怖感(?)

 

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西村秀一*1へのインタビュー記事(2020/7/11、https://ameblo.jp/qpfs/entry-12611025921.html)がおすすめである。最後の部分だけ、引用しておこう。

  1. 感染リスクは環境や条件によって異なります。一律の対策はあり得ません。
  2. 2月の一斉休校要請もその後の緊急事態宣言も、地域ごとにやるべきだった。
  3. 分かってきた知見から、高齢者や持病のある人と重症化事例の少ない子どもで対応は違っていいはずです。
  4. 一つ一つのリスク評価をする際、異なる科学的見解も踏まえて検討する。これもバランスの取り方です。
  5. 危機と感じる人が多い時こそ『一色』にならないようにしなければ。
  6. これからは平常時から専門分野を超えて議論する場があったらいいと思います。
  7. 最終的には、公衆衛生だけでなく教育、経済、社会活動のバランスを取るのは為政者の役割です。
  8. 為政者は、どんな決断をしても非難は免れない孤独な立場だと腹をくくらなきゃならない。
  9. 専門家が確率を示すことが重要なのは、彼らが全体を適正に勘案できるようにするためです。

すべてにコメントしたいところだが、ここでは、3.のコメントをする。

 

次の数表は、厚労省の「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」の「年齢階級別死亡数」のグラフ数字から作成したものである。

年齢階級別死者数(週別・新規)

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例えば、「8/12」の表示は、8/6~8/12の1週間の数字である。但し、最初の「~4/15」と最後の「~8/12」は、「累計」である。

一見して、60歳以上の高齢者の死者数がほとんどであることが明らかである。これは最近の傾向というより、当初からわかっていたはずである。

西村が言うように、「高齢者や持病のある人と重症化事例の少ない子どもで対応は違っていいはず」である。

このように述べると、「感染者が増えると、高齢者にうつす危険が増すので、お盆の帰省自粛や、若年者へのPCR検査拡大が必要なのだ」との反論があるようだ。この反論に対しては、次のように考える。

確かに、感染者が増えると「高齢者」にうつす危険は増す。しかし同時に「若年者」にもうつす危険も増すはずである。だから、この反論は、高齢者をダシに使って、感染者の「移動自粛」「外出自粛」を要請するものであり、そのような感染者を見つけるためにPCR検査を拡大せよ(→感染者を「隔離」せよ)というものである。これは、「治療」の観点からの主張ではなく、「防疫」(感染拡大を防止する)の観点からの主張である。しかし、「防疫」に関する議論は、「教育、経済、社会活動とのバランス」を考慮すべきであり、広範な知見を結集しなければならない。軽率に「隔離」すれば良いというものではない。「治療」の観点からは、高齢者対策が必須である。(若年者が感染しても大したことはない)

 

上表で目立つのは、6/18~6/24の週の新規感染者数320人である。これは、「死者」の定義の変更によるものと考えられる。

厚労省は、2020/6/18付の事務連絡で、「新型コロナウイルス感染症患者が死亡したとき」には、厳密な死因を問わず、「新型コロナウイルス感染症の陽性者であって、入院中や療養中に亡くなった人」を死亡者数として厚労省に報告することを求めることとしたのである。(2020/07/25 COVID-19:新型コロナウイルス感染症の「死者」の定義 参照) 

その結果、このような異常な数字になったと考えられる。変更以前の数字と変更以後の数字を比べるとき、注意が必要である。傾向がわからなくなる。

7月後半から死者数が若干増えている。これは死者の定義の変更によるものかもしれない(以前の定義では増えていないかもしれない)。

この定義変更は妥当なのだろうか。年齢にあまり関係なく死亡率がほぼ同一であれば、何となくわかる気がするが、圧倒的に高齢者に死亡が多いことを考えれば、新型コロナウイルスではなく、他の病因により死亡したとするほうが妥当ではないだろうか。(私は、この定義変更による影響は数十人程度かと思っていたが、数百人規模とは…)。

 

死者数の集計に国際的な統一基準がないらしい。

COVID-19の死者の記録方法は、国によって違う。例えばフランスは、毎日発表する人数に介護施設で亡くなった人を含めている。一方、イングランドは4月末まで、病院で死去した人数だけを発表していた。

死や死因をどう判定するのかについても、一致した国際基準がない。統計に反映するには、ウイルス検査を受けている必要はあるのか、それとも感染の疑いがあると医師が診断すれば十分なのか? ドイツでは介護施設の死者については、ウイルス陽性と判定された場合に限り、数に含めている。一方ベルギーでは、疑いありと医師が診断した死者は全て、新型ウイルス関連死に含めている。では、新型ウイルスが主な死因でなくてはならないのか、または死亡診断書に何らかの記載があればいいのか? 各国の被害状況を比較するとき、本当に同じ数字を比べているのだろうか? (2020/4/24、【解説】 各国の感染・死者数、比較が難しいのはなぜ?

そうだとすると、この数字にはいろいろな思惑が入り込む。

新型ウイルスが主な死因でなくても、「新型コロナウイルス感染症」による死亡とすると、(治療の大義名分のもと)検査機器や治療薬・ワクチン開発の関係業界が潤うことになるだろう。診療報酬次第では、医師にもメリットがあることになる。

 

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以前の記事(2020/07/31 COVID-19:PCR検査 -地獄への道は、善意で舗装されている-)で、必要な分析的な情報の一つとして、「症状の変遷」をあげたが、少し補足しておこう。

  • 発症時(診察時)、「軽症」、「中等症」、「重症」のいずれだったか。(ここでは、発症後の検査を前提としている)
  • 各患者の症状の推移、すなわち①軽症→中等症、②中等症→重症、③重症→死亡、④重症→中等症、⑤中等症→軽症、⑥軽症→退院 の期間。
  • 各患者の属性…性別、年齢、基礎疾患、既往症、渡航歴 等々。
  • 「無症状」も患者に含めているようだから、上記症状の推移に、⑦無症状→軽症、⑧軽症→無症状、⑨無症状→退院(隔離解除) も含めなければならない。
  • 各人(検査陽性者)ごとの上記データを、集計し、分析すること。

55,000人の感染者(2020/8/15現在)のデータがあるのだから、これ位はできるだろう。このような基礎的データを提供できないようでは、専門家は一体何をしているのだろうか?

マスメディアはこのようなデータに関心はないのだろうか?

 

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欧米、中南米、インド、アフリカ……海外の情報が決定的に不足しているように思われる。専門家/メディアは、表面的な現象報告ではなく、分析的な情報を発信して欲しい。

冒頭の西村の言葉、「感染リスクは環境や条件によって異なります。一律の対策はあり得ません」を銘記しておきたい。

新型コロナに限らず、さまざまな感染症がある。私たちはそれにどう対処するのか。これまで、どれほどのことを学んできたのだろうか。

さらに言えば、感染症に限らず、さまざまなリスクがある。私たちはそれにどう対処するのか。これまで、どれほどのことを学んできたのだろうか。 

*1:独立行政法人国立病院機構(仙台医療センター臨床研究部)、その他部局等、医長・室長、専門は呼吸器系ウイルス感染症