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COVID-19:「新型コロナで死ぬ」とはどういうことか?(3)- 「肺炎で死ぬ」のではないのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(35)

COVID-19は重症化すると、人工呼吸器が必要となり、肺炎で死ぬリスクが高くなるという。この表現に違和感を覚えないだろうか。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)という病気と肺炎という病気はどういう関係にあるのか(肺炎:主に細菌やウイルスに感染することにより、肺の中を通る気管支のさらに先にある肺胞という部位が炎症を起こす病気)。毎日発表される死者数は、COVID-19による死者数なのか、それとも肺炎による死者数なのか?

下表は、COVID-19の年代別死亡数と2018年の肺炎の年代別死亡数を並べたものである。この表での注目は、60代以上の死亡がCOVID-19では94%、肺炎では99%を占めるということである。

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*COVID-19死亡数:厚労省の「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」の「年齢階級別死亡数」のグラフ数字から作成。

*肺炎死亡数:人口動態統計より。(詳細は後述)

 

COVID-19は、これまで何度も見てきた人口動態統計の「死因別死亡数」の死因としてはどこに表示されるのだろうか。「感染症」なのか「呼吸器系の疾患」なのか。

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「令和元年年(2019) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚労省)より

前回見たように、この数字は「死亡診断書」から作られている。そして「死亡診断書」の「死亡の原因」欄の書き方にはルールがある。それは、WHOが定めたルール*1である。

人口動態統計の死因統計に用いられるのは「直接死因」ではなく、「原死因」(起因)である。なぜ「原死因」を用いるのか。それは「死亡の予防という観点からは、疾病など一連の病的事象の起因を防止することでその連鎖を断ち切ることが重要である。原因を防止することが最も効果的な公衆衛生の活動である」という考えに基づくものである。このように、死因統計は、予防目的(原因を防止)の観点から作られる。

以上は、前回記事の補足である。

【訂正】前回記事で、死亡診断書に(ア)誤嚥性肺炎、(イ)肺炎 と記載されているとき、老衰にカウントされると書いたが、原死因は、誤嚥性肺炎とカウントされると訂正します。

 

さて、冒頭の数表で、2018年の年代別の肺炎の死亡数を記載したが、この数字はどこから持ってきたか。

まず「人口動態統計」*2だが、e-Stat(政府統計の総合窓口)の「人口動態調査」のページディレクトリがあるので、人口動態統計>確定数>保管統計表(報告書非掲載表)>死因 より調査年を選択し、1.死亡数,死因(死因基本分類)・性・年齢(5歳階級)別CSVファイルをダウンロードする。EXCELファイルにすれば加工しやすい。

死因は、ICD-10コードである。

ここで「肺炎」の数字を抽出したいのだが、ICD-10コードが分らない。死因簡単分類コードは分かっている(10200)ので、対照表(死因分類表(2013年版)準拠)を参照し、ICD-10コード(J12-J18)を得る。

2018年肺炎の死者は94,661人であるが、ICD-10コード(3桁)別の内訳は、以下の通りである。(冒頭の表は、J12-J18合計を、年齢階級別に集計したものである*3)。

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J12:29人は、以下の4桁コードの合計29人と一致する。

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このJ12(ウイルス肺炎,他に分類されないもの)に関して注意すべきは、

(1) 重症急性呼吸器症候群SARS]は含まれないSARSのICDコードは、U04.9)。ウイルス肺炎であっても、ここに含まれないものが多数ある*4

(2) 肺炎を伴うインフルエンザは含まれない。インフルエンザウイルス以外のウイルスによる気管支肺炎は含む。

 

肺炎の死者は94,661人であるが、ほとんど(95%)が病原体不詳とされている。言い換えると、病原体がわからない肺炎で、年間9万人死んでいるのである。これは問題とされるような事ではないのだろうか。コーディング(コード付け)の論理から言えば、J18(肺炎、病原体不詳)が「原死因」(起因)とされているはずである。しかし、実際には、死亡診断書の(ア)欄(直接死因)に「肺炎」とだけ書かれているのではないかと想像する(実際には見たことがない…)。

COVID-19はいつまで、「原因不明または緊急使用の新しい疾患」とされるのだろうか。素人考えでは、J12.9(ウイルス肺炎、詳細不明)または J12.??(コロナウイルス2肺炎)が適当であるように思われる。

 

「~ウイルス肺炎」という死因は適切だろうか。これは「原死因」(起因)なのだろうか。「肺炎」が「直接死因」で、「~ウイルス」は病原体であって病名ではない、のではないか。

 

ここで言いたかったことは、死亡診断書の死亡の原因欄は、コーディング(コード付け)の論理通りに書かれていない/因果関係が明確ではないので書くことができない医師に原因を探るニーズがない、のではないかということである。

 

「肺炎」が「直接死因」で、「COVID-19」が「原死因」(起因)だとしてみよう。冒頭の表を見れば明らかなように、高齢者の死亡がほとんどである。これは「COVID-19」と「肺炎」の間に、免疫力低下に関係する多くの要因があると想像させる。(2020/08/21 COVID-19:風が吹けば桶屋が儲かる -コロナで死ぬということ- 参照)

*1:

  • WHOは、保健医療福祉分野の統計について国際比較を可能とするため、複数の国際統計分類を作成し、その中心分類として、ICD(国際疾病分類)を位置付けている。ICDは、疾病、傷害及び死因の統計を国際比較するため、WHOから勧告された統計分類である。
  • ICDは、正式な名称を「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical  Classification  of  Diseases  and  Related Health Problems」という。
  • WHO加盟国は、保健総会が決定した方法によって、統計的及び疫学的報告を提出しなければならない。
  • 日本では統計法に基づき「疾病、傷害及び死因の統計分類」と定められており、我が国におけるICD−10は、平成7年に「ICD−10(1990年版)準拠」、平成18年に「ICD− 10(2003年版)準拠」、平成28年1月からは「ICD−10(2013年版)準拠」が適用された(人口動態統計は、平成29年1月分から適用開始)。
  • 我が国では、ICD-10に基づいて分類されたデータをもとに、人口動態統計として死因統計を公表している。
  • 死因コーディングは死亡診断書(死体検案書)の記載内容で判断される。
  • ICDのコードは、アルファベットと数字で構成されている。コードによって疾病や 傷害の部位、原因などを表すことができる。
  • ICDは医学的に類似している疾患、傷害、状態などを区別して整理するための分類である。医学用語集ではない。
  • 死亡診断書(死体検案書)には、複数の病態が記載してあることが通常である。それらの病態から死因統計に用いる死因(原死因)を選択する
  • 原死因(underlying cause of death)の定義…(a)直接に死亡を引き起こした一連の事象の起因となった疾病又は損傷。(b)致命傷を負わせた事故又は暴力の状況。
  • 死因統計では、多くの場合、死亡診断書(死体検案書)の「(ア)直接死因」に記載された死因が統計上の死因と一致しない。これは直接死因が不要という意味ではない。死亡の予防という観点からは、疾病など一連の病的事象の起因を防止することでその連鎖を断ち切ることが重要である。原因を防止することが最も効果的な公衆衛生の活動であるという考えに基づき、その原因を表す原死因で統計を作成している

以上、「ICDのABC」より。

*2:「人口動態統計月報年計(概数)」ではない。

*3:2020/08/27に示した「敗血症」の年齢階級別死者数も、同様の手順で求めたものである。

*4:この(1)から予想されるように、COVID-19(コロナウイルス感染症 2019)のICDコードは、U07.1及びU07.2とされた。U00~U49は、原因不明または緊急使用の新しい疾患の暫定的な割り当てのためのコードである。なお、「コロナウイルス感染症 部位不明」はB34.2、「他の章に分類される疾患の原因としてのコロナウイルス」はB97.2である。