浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

2022-01-01から1年間の記事一覧

ディケーの弁明

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(19) 今回は、第2章 エゴイズム 第4節 ディケーの弁明 1「正義は最善の政策」か(p.63~)である。 ディケーとは、ギリシア神話の正義の女神である。ここでは「正義論者」の意味である。本節は「ディケーの…

〇〇の音楽アラカルト

最近聴いた曲です。 #1 Quién Será REMIX/Julio Iglesias & Thalia www.youtube.com #2 Ain't No Sunshine/Bill Withers (cover by Canen) www.youtube.com #3 Stand Still /Sabrina Claudio www.youtube.com #4 Boléro/Prequell Rework www.youtube.com…

パネルデータ分析

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(10) 今回は、第5章 「複数期間のデータ」を生かすパネルデータ分析(p.178~)である。 パネルデータとは、次のようなデータである。 パネルデータとは同一の対象を継続的に観察し記録したデータのこ…

社会保障と経済の関係

香取照幸『教養としての社会保障』(28) 今回は、第8章 【新たな発展モデル】北欧諸国の成功モデルから学べること 第2節 北欧の成功―新たな成長モデル の続きと、第3節 目指すのは「安心と成長の両立」である。 知識産業社会における労働 北欧が先陣を切…

頭脳と手足

久米郁男他『政治学』(35) 今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 の続きである。 NPM(New Public management)の具体例として、①市場化テスト、②エージェンシー、③PFIがあげられていたが、今回は、②エージェンシーを見てみよう。 頭脳と手足…

認知的斉合性理論 ― 食後のデザートは別腹よ

山岸俊男監修『社会心理学』(19) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、認知的不協和理論 の続きである。 「認知的斉合性理論」の代表的なものに、「認知的不協和理論」と「バランス理論」があるとされる。私は、認知的斉合性理論を「辻褄が合わない事…

なぜ「他人より」優れていたいと願うのか?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(27) 今回は、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 第1節 なぜ競争するのか の続き(P.166~)である。 前回の終わりに、次のような文章があった。 競争を行うのは自分の能力に対して抱いて…

ユマニチュード(Humanitude)

素直な気持ちで、以下の動画と記事をご覧ください。 新たな認知症ケア「ユマニチュード」とは【報道特集】 www.youtube.com 認知症といっても、高齢者に限られるというわけではなく、若年性認知症もあります。 『優しい認知症ケア ユマニチュード』前編 ユマ…

「所得」とは何か?

神野直彦『財政学』(31) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 のうち、「所得源泉説」と「包括的所得概念」(p.188~)をとりあげる。 「所得税」といえば、多くの人は「給与所得」に対して課される税金を思い浮かべるだろうが、「給与所得」の他にもいろ…

生命の機械論モデル

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(33) 今回は、第4章 機械としての生命 第2節 生命の機械論モデル である。 現代の生命科学は全て、デカルトに由来する機械論哲学を前提として構築されている。…カンギレムは、『生命の認識』所収の論…

映画「Ribbon」(監督・主演・脚本:のん)― コロナ禍で、美大の卒業制作展が中止になった

映画「Ribbon」(2021年製作/115分/G/日本、配給:イオンエンターテイメント) YouTubeで配信された映画「おちをつけなんせ」で監督デビューした女優のんが、劇場公開の長編映画で初メガホンをとり、自ら主演・脚本も務めた青春ドラマ。コロナ禍の2020年…

さまざまな接続関係

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(1) 今回は、第Ⅰ編 接続の論理 第1章 さまざまな接続関係 である。 さて、いきなり問題である。問題は「次の文章において適切な接続表現を選び、どうしてそれが適切であり、他方が不適切なのかを説明せよ」である。 【…

都合により…

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(番外) 「都合により」本書の読書ノートは中断します。いつ再開するかは未定です。 ********** 「都合により」という言葉は便利な言葉で、私は時々使います。「理由」を述べる必要がない時、述べたくない時に使いま…

チャルダッシュ

1. 禁止法律が出たほどの中毒性!?【チャルダッシュ/モンティ(Monti:Csárdás)】/高松あい www.youtube.com この動画で、「チャルダッシュ」とは何かの説明があります。コトバンクの説明と合わせて言えば、次のような意味になります・ ハンガリーの(ジプ…

正義論におけるエゴイズムの位置

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(18) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き (3)正義論におけるエゴイズムの位置(p.59~)である。 エゴイズムの哲学が批判しているのは、個々の正義観が提示する個々…

集積分析(3)― 連続した変化に分断線を入れることの結果は?

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(9) 今回は、第4章 「階段状の変化」を賢く使う集積分析 の続き(p.157~)である。 集積分析とRDデザインの違い 集積分析の例示を再掲する*1。 車が重くなるほど、規制が緩くなっているので、いま測定…

明鏡止水 ― ほかの人の妻となるよりも、この人の妾になりたい

言葉(4) 明鏡止水(めいきょうしすい) 曇りのない鏡[明鏡]と、静止している水[止水]のことで、邪念が無く、明るく澄み切った心境をいう。(真藤建志郎、四字熟語博覧辞典) これが一般的な辞書の説明であり、出典は、『荘子』徳充府編である。 徳充…

北欧の成長モデル (2)

香取照幸『教養としての社会保障』(27) 今回は、第8章 【新たな発展モデル】北欧諸国の成功モデルから学べること 第2節 北欧の成功―新たな成長モデル の続きである。 北欧は製造業モデルから脱却し、人的資本の充実に力を入れ、知識産業を中心とした産業…

市場化テスト 公共サービスの質は?

久米郁男他『政治学』(34) 今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 をとりあげる*1。 本節のサブタイトルは、「民間活力の利用と競争原理の導入」である。 先進諸国において1970年代末から、官僚制改革を方向付けるキーワードとして、ニュー・パ…

認知的不協和理論(辻褄合わせの理論)

山岸俊男監修『社会心理学』(18) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、認知的不協和理論 である。 色々な言葉が出てきて紛らわしいが、まず認知的斉合性理論という言葉を覚えておこう。 その認知的斉合性理論の代表的なものに、(1) F.ハイダー(1896-…

なぜ競争するのか?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(26) 今回から、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 である。 コーンは、競争に伴う心理的な犠牲について述べている。 競争が有効であるという決まり文句を一度も疑ってかかったことのない…

結婚への刑罰とギフト

神野直彦『財政学』(30) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 のうち、「所得税の課税単位:結婚への刑罰とギフト」(p.192~)をとりあげる。 税金(公的な支出に必要なお金)は、「経済力に応じて分担しよう」という考え方には、(各論はともかく総論と…

プレミアム世代の懐メロ?

先日、車の運転中何気なくラジオを聞いていたのだが、奇妙にも印象に残る曲があり、帰ってから何という曲か調べてみたら、次の曲だった。 Safe From Harm (1991) www.youtube.com 私は普段このような曲を聴かないのだが、どうもプレミアム世代の懐メロらし…

生命の分析に対するカンギレムの批判

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(32) 今回は、第4章 機械としての生命 第1節 生命の分析 の続き(p.170~)である。 我々は「あるがままの記述」を理解できない 生命を構成するすべての分子の運動を記述することができれば、それは…

存在に対して笑顔を浮かべる人たち

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(8) 今回は、第2章 哲学のあらまし の続き(p.56~)である。 前回は、「存在に対して渋面をつくる人」(「存在への難色」派)として、ショーペンハウアーが挙げられていたが、J.P.サルトルやJ.アップダイクもそう…

養老孟司の講話(生活の知恵)

「バカの壁」で有名な養老孟司のYouTube動画が面白かったので紹介します。 動画タイトルはちょっとどうかと思いますが、まあいいでしょう。 1.【養老孟司】みなさんに1つだけお願いがあります。ウイルスに関してこれだけは知っておいて下さい。衝撃の研究…

絶世の未来へ <地の響き>

太鼓奏者 林英哲の演奏活動50周年記念公演が、2021年3月17日にサントリーホールで開催された。 独奏の宴─「絶世の未来へ」 「祈り」「厄払い」、そして「良き未来」のための「ひとり舞台」、空前絶後、一世一代 次の動画は、そのダイジェスト版である。(こ…

「個」のエゴイズム 「狂信者」と「検閲官」

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(17) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き(p.54~)である。 井上は、面白い例を示しているので(p.58)、これを最初にとりあげよう。(傍点は緑字にした) ある会…

集積分析(2)― 今年の10月1日から、75歳以上の医療費窓口負担割合が1割から2割になる

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(8) 今回は、第4章 「階段状の変化」を賢く使う集積分析 の続きである。 伊藤は、集積分析のもう一つの応用例として、スタンフォード大学のラジ・チェティ教授らが行った「所得税と労働供給の因果関係…

北欧の成長モデル (1)

香取照幸『教養としての社会保障』(26) 今回は、第7章 【国家財政の危機】「将来不安」を払拭するために何をすべきか 第3節 不安の背景にあるもの である。 香取の言う不安とは、(1)経済や社会の将来への不安、(2)日常の中の不安(拠り所の喪失、目…