浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

読書ノート

結婚への刑罰とギフト

神野直彦『財政学』(30) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 のうち、「所得税の課税単位:結婚への刑罰とギフト」(p.192~)をとりあげる。 税金(公的な支出に必要なお金)は、「経済力に応じて分担しよう」という考え方には、(各論はともかく総論と…

生命の分析に対するカンギレムの批判

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(32) 今回は、第4章 機械としての生命 第1節 生命の分析 の続き(p.170~)である。 我々は「あるがままの記述」を理解できない 生命を構成するすべての分子の運動を記述することができれば、それは…

存在に対して笑顔を浮かべる人たち

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(8) 今回は、第2章 哲学のあらまし の続き(p.56~)である。 前回は、「存在に対して渋面をつくる人」(「存在への難色」派)として、ショーペンハウアーが挙げられていたが、J.P.サルトルやJ.アップダイクもそう…

「個」のエゴイズム 「狂信者」と「検閲官」

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(17) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き(p.54~)である。 井上は、面白い例を示しているので(p.58)、これを最初にとりあげよう。(傍点は緑字にした) ある会…

集積分析(2)― 今年の10月1日から、75歳以上の医療費窓口負担割合が1割から2割になる

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(8) 今回は、第4章 「階段状の変化」を賢く使う集積分析 の続きである。 伊藤は、集積分析のもう一つの応用例として、スタンフォード大学のラジ・チェティ教授らが行った「所得税と労働供給の因果関係…

北欧の成長モデル (1)

香取照幸『教養としての社会保障』(26) 今回は、第7章 【国家財政の危機】「将来不安」を払拭するために何をすべきか 第3節 不安の背景にあるもの である。 香取の言う不安とは、(1)経済や社会の将来への不安、(2)日常の中の不安(拠り所の喪失、目…

私たちは、政治家に全権委任しているのだろうか?

久米郁男他『政治学』(33) 今回は、第10章 議会、第3節 議会と政党 である。 官僚主導の立法過程 戦後日本における成立法案の85.4%が政府[内閣]提出になる閣法である。この閣法は、関連省庁からボトムアップで作成・提案される。法案作成に主として…

バランス理論、三角関係の理論

山岸俊男監修『社会心理学』(17) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、バランス理論 である。 山岸は、F.ハイダー(1896-1988)のバランス理論を、次のように説明している。 人が相手に対して持つ態度は、自分と相手が、ある対象とどう関係するかによ…

競争を伴わないスポーツ(気晴らし、楽しみ)【デポルターレ】(下)

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(25) 今回は、昨日の「競争を伴わないスポーツ(気晴らし、楽しみ)【デポルターレ】(上)」の続きである。 コーンは、「競争を伴わないゲーム」を考え出した人物として、T.オーリック、J.ソ-ベル、T.F.レンツ、R…

競争を伴わないスポーツ(気晴らし、楽しみ)【デポルターレ】(上)

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(24) 今回は、第4章 競争はもっと楽しいものなのだろうか-スポーツ、遊び、娯楽について の続き(p.146~)である。 「競争を伴う気晴らし」を奨励することの論拠(利点)には、以下の〇で示したようなものもある。…

「所得税」理解の前提知識

神野直彦『財政学』(29) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 に進もうと思ったのだが、本章の理解のためには、前章までの説明を理解しておく必要があり、その復習と私見を少し述べるに終わってしまった。第13章は次回にする。 人税と物税 本章のタイト…

因果関係 ― ブラックボックス(内部構造不明の暗い箱)、フラクタル(無限入れ子)

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(31) 今回は、第4章 機械としての生命 第1節 生命の分析(p.164~)である。 前章 第4節(遺伝子は外的に観察された形質の情報を担うか)では、次のようなことが述べられていた。*1 前章の内容を覚え…

存在に対して渋面をつくる人たち フラヌール(Flaneur、実存的遊歩者)

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(7) 今回は、第2章 哲学のあらまし の続き(p.50~)である。 「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?」という問いを巡り、思想家の見方は3つに分かれて現在に至っている、とホルトはいう。次の3つである。…

「種」と「類」のエゴイズム

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(16) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き(p.54~)である。 前回までは (1)正のエゴイズムと負のエゴイズム だったが、今回は (2)「種」と「類」のエゴイズム であ…

集積分析(1)― ギザギザがもたらすもの

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(7) 今回は、第4章 「階段状の変化」を賢く使う集積分析 である。 因果関係をデータ分析によって解き明かすための最良の方法は、ランダム化比較試験(RCT、Randomized Controlled Trial)である。RCT…

私は、いつまで生きるだろうか? いつ死ぬだろうか?

香取照幸『教養としての社会保障』(25) 今回は本書を離れて、番外編として「生命表」をとりあげる。 生命表とは、 年齢別、男女別などに類別し、生存数・死亡数および生存率・死亡率、平均余命(寿命)などを一括して示した表。日本では、厚生労働省が国…

粘性流体 ― ネバネバとサラサラ

久米郁男他『政治学』(32) 今回は、第10章 議会、第2節 日本の国会 第3項 国会についての2つのイメージ をとりあげる。 対決と裏取引 2つのイメージとは、①与野党が激しく対立する対決のイメージ、②与野党が舞台裏で本音の交渉をして妥協を図る裏取引の…

社会的アイデンティティ(2)― 自己カテゴリー化理論

山岸俊男監修『社会心理学』(16) 今回の記事の自己評価は、「自己カテゴリー化理論」を理解していないので、「ごみ箱」入りです。 ********** 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、社会的アイデンティティ② である。 山岸は、J.C.ターナ(1947-2011)…

社会を覆っている「不安」

香取照幸『教養としての社会保障』(24) 今回は、第7章 【国家財政の危機】「将来不安」を払拭するために何をすべきか 第2節 社会を覆っている「不安」である。*1 「将来不安」を払拭するために何をすべきか というタイトルであるが、日本社会を覆ってい…

競争と娯楽と満足感

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(23) 今回は、第4章 競争はもっと楽しいものなのだろうか-スポーツ、遊び、娯楽について の続き(p.143~)である。 S.ウォーカーは、こう述べている。「スポーツ選手がここで声を大にして強調する哲学は、ゲームの…

「遺伝子」から「形質」への因果関係

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(30) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第4節 遺伝子は外的に観察された形質の情報を担うか(p.154~)である。 現在、一口に「遺伝子」と言われるものが、何らかの情報を担うものである点、その物質的実体…

個人所得税、累進税率を考える

神野直彦『財政学』(28) 今回は、たぶん後で出てくるであろう「累進課税」について考えてみよう。といっても、累進課税の意義・根拠の話ではなく、「税率」の話である。消費税率については、皆さん関心が高く誰もが知っているが、所得税の税率については…

パーティーガールがケーキから飛び出してきた

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(6) 今回は、第2章 哲学のあらまし の続き(p.45~)である。 是非もない事実 五感が捉えることのできる証拠に基づく経験的真理は、科学研究の領分に属する。そして、なぜ世界が存在するのかという問いは、科学の…

かけがえのない存在

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(15) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き(p.51~)である。 井上は、正義は道徳的価値のすべてではなく、一つの道徳的価値であると述べている。そして衡平の概念に…

租税の公平性と直間比率

神野直彦『財政学』(27) 今回は、第12章 租税の分類と体系 の続き(pp.175-180)である。 直接税と間接税 「税法入門」*1によれば、直接税と間接税の区分は、「税金を負担する者と税金を納める者が、同じか異なるかによる分類」である。直接税の代表的な…

RDデザインの強み・弱み、広島の「黒い雨」

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(6) 今回は、第3章 「境界線」を賢く使うRDデザイン の続きである(p.131~147)。*1 RDデザインにおける仮定が崩れるのはどんな場合か 前回の復習から。「回帰・不連続」(回帰曲線が不連続)の意味…

「議員立法」を考える

久米郁男他『政治学』(31) 今回は、第10章 議会、第2節 日本の国会 第2項 法案審議の流れ の続きである。 国会に提出される法案には、内閣が提出する法案(閣法)と、議員が提出する法案(衆法、参法)があり、議員が提出する法案は「議員立法」と呼ば…

社会的アイデンティティ(1) ― 私は「集団」に所属する

山岸俊男監修『社会心理学』(15) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、社会的アイデンティティ① である。 「アイデンティティ」と言えば、ID card(identity card、身分証明書) を思い浮かべる人が多いだろう。システムにログインするときの「ログイ…

オバマケア(お手頃価格のケア法)

香取照幸『教養としての社会保障』(23) 今回は、第7章 【国家財政の危機】次世代にツケをまわし続けることの限界 (7)社会保険料負担―企業負担は重いのか、軽いのか? である。 被雇用者の社会保険料負担は、労使折半である。非正規労働者は社会保険に加…

回帰不連続デザイン

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(5) 前回まで、本書を「COVID-19」及び「読書ノート」のカテゴリーで取り上げてきたが、今回より「読書ノート」のみのカテゴリーとする。(読了後COVID-19に言及するかもしれない。*1) 今回は、第3章…